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2019.7.13

誰かのお役に立ちたい時、ここはおさえておきたい!ーPFAのご紹介②

 

おはようございます。

  マゼランライター、PBMトレーナーの野村美香です。

 

 

 前回から、『誰かのお役に立ちたい』という思いを持っていらっしゃる方々に向けて、災害時の支援者支援の手引きである「サイコロジカル・ファースト・エイド」(PFA)をご紹介しています。

 

 1回目の前回は、『人の役に立ちたい』時の基本である、セルフヘルプについてお伝えしました。

 

 2回目の今回から、PFAのエッセンスである4Lをご紹介いたします。

 

 


4Lとは、

 

 Learn(理解する)

 

 Look(観察する)

 

 Listen(聞く)

 

 Link(つなげる)

 

です。

 

 

 今回は、Learn(理解する)とLook(観察する)について説明します。

 

 

 

 

 

 

 

1.Learn (理解する)

 

 支援は、相手、すなわち現場を理解することから始まります。

 

 ① どのような支援サービスやサポートがあるか?

 

 ・ 緊急医療、食糧、水、避難所、 捜索、メンタルヘルスを提供しているのは誰か?

 

 ・ どこで、どのように、いつ、それらのサービスを受けることが可能なのか?

 

 ・ それらの活動に、地域の方々が  関わっているのか?

 

 緊急時は、とにかく、何かできることをしたいという思いにかられがちです。でも、そんな時こそまず現地の実情を把握する必要があります。

 

 阪神淡路大震災の時、ボランティアが殺到し、却って現場が混乱したり、復興活動の妨げになるという事態が起こりました。その後、現地のニーズに合った対応が必要だということが共有されるようになったと言われていますが、これは忘れてはならないことです。

 

 

 ② 安全に対する懸念: 危機は収束しているのか? 未だ続いているのか?

 

 前回もお伝えしましたが、災害時など支援が必要とされる状況では、何より安全が優先されます。え!?と思われるかもしれませんが、現地に赴いた支援者が、支援の対象になってしまうことは、実は少なくありません。いわゆる”ミイラ取りがミイラになる”という状況です。これは、避けるべき事態です。

 

 生命に関わることでなくても、支援者自身が生きるための準備が不十分という場合もあります。東日本大震災復興支援活動中、支援のボランティアが、自分自身の食糧を調達できず、被害にあわれた方々向けの食糧を分けていただいていたという話を耳にしました。ありえない!ですよね。でも、実際に起きているのです。

 

 自分自身が安全で、survive(生き残る)こと!

 

これは支援の基本です。

 

 というか、災害等の緊急時だけでなく、常に基本ですよね。でも、すっかり抜け落ちてしまって、何かしたい!という思いだけで行動してしまうこと、ないですか?

 

 飛行機の機内安全ビデオで必ず耳にする「緊急時はまず自分がシートベルトを着用してから、お子さんのケアをしてください」という例を引合いに出すまでもなく、まず自分自身が安全でなければ他人のことは何もできない! そのことを、今一度肝に銘じておいていただきたいと思います。

 

 そして、この安全というのは、身体的な安全に限りません。心理的安全も同様です。自分自身が安心していて、安全であると感じていられることが基本です。特に、人のために何かしたいと思った時は、まず自分が心理的に安心して安全と感じられているか、を意識してみてください。

 

 

 ③ 関係当局の指示に従う

 

  大きな災害の後は、情報が錯綜し、指示系統が混乱をきたします。だからこそ、関係当局の指示に従って行動することが肝要です。

 

 もちろん、臨機応変に対応しなければならない局面は多々あります。ただ、不安に駆り立てられた行動と、現状を理解した上での行動の間には、雲泥の差があります。まずは、現状を理解することからです。

 

 

 ④ 自分の役割を知り、その限界を知る

 

 そして、一番大切なのは、自分の役割を知り、その限界を知ることです。

 

 やりたいこととできることは必ずしも一致しません。やりたくてもできないという状況は、無力感や不全感を喚起します。無力感や不全感を抱くのはきついので、つい、できると言って行動に移してしまうことがあります。でも、それが支援を求めている人にとっての不利益につながらないか、熟慮する必要があります。

 

 自分の役割を知り、限界を認めること!

 そして、自分でできないことは、誰かに託す強さが必要です。

 

 

 

 

 

 


2.Look(観察する)

 

 Look(観察する)は、Learn(理解する)に続いて、支援が必要な方々と、それぞれどんな支援が必要かを見極めるために欠かせません。

 

 ① ケアや安全確保に関して、特に配慮が必要な人はどんな方々か?

 

 ② そのような方々への支援を積極的に行い、必要なサービスにつなげる

 

 

 災害などの緊急時に、特に配慮が必要なのは、どのような方々だと思われますか?

 

 緊急時は、誰でも冷静ではいられなくなります。程度の差こそあれ、パニック状態に陥っています。そういう状況では、通常だったら考えられないようなことが起こりえます。関東大震災の時、様々なデマが流れ、社会的弱者と言われる方々が差別的な扱いを受けたという話は有名ですね。

 

 いわゆる多数派に所属していると、そうでない方々が被る不利益に思いを馳せることは多くないかもしれません。でも、怪我をして、松葉杖や車椅子が必要な状態になって初めて、普段当たり前だと思っていたことがどれだけ困難かを実感したという経験をされた方は少なくないかと思います。

 

 災害時に、差別や暴力・虐待にさらされる危険が高い方々としては、高齢者、妊婦、身体・知的・精神障害者、子ども、外国人が挙げられます。

 

 このような方々は、情報を収集して、現状を理解することが困難であることに加えて、援助を求めることがうまくできないことが多いのです。

 

  高齢者の方は、お体が不自由なため行動が限定されていたり、認知機能低下に伴い、状況把握が適切にできないことがあります。

 

 妊婦さんにとっては、安全で安心できる環境に身を置いていることが非常に重要であり、そうでない状況では不安や恐怖を強く感じたり、身体的な影響が出やすくなります。

 

 身体障害をもつ方々は、動きが限定されたり、困難にむけています。知的・精神障害の方々は、客観的な状況把握・理解や不測の事態に臨機応変に対応することが苦手で、パニックを起こしたり不適切な行動にはしってしまうことがあります。

 

 子どもは、年齢や個人差も大きいですが、大人には理解できない認知や対応をすることが少なくなく、傍から見たら不可解・不適切だったり、危険な行動に出ることがあるかもしれません。

 

 外国人の方は、価値観や文化的な違いから適切な対応が困難であったり、慣れない土地での不安を抱えていたり、また言語的問題から情報収集や意思疎通に問題を抱えてしまう場合があります。

 

 支援する立場の方も、現地に赴いたり、ニュースに触れるだけで神経が活性化し、高揚した状態に陥りがちです。そういう時こそ、まず落ち着いて、自分自身の身体的・心理的安全を確保してから、特に配慮が必要な方々は誰か?を見極めることが重要です。

 

 そして、そのような方々はご自身のニーズや要望を伝えるのが難しいことが多いので、より積極的に関わっていく必要があります。自分ができる範囲を超えていたり、より専門的な支援が求められていると判断した場合は、必要なサービスにつなげることが重要です。つなげることに関しては、次回お伝えいたします。

 

 

 

 

 

 

 この「観察」という視点は、非常に重要です。プロファイラーやメンタリストと言われる人たちは、この観察力を駆使して膨大な情報を収集し、処理しているのです。そこまでいかなくても、普段から観察する視点を広げておくと、得られる情報の質も量も格段に向上させることができます。

 

 

☆ 観察のポイント ☆

 

 PFAには記載されていませんが、私が、これまでの臨床経験を通じて重要だと思い、大学の『心理アセスメント』の授業でお伝えしていることは以下の点です。

 

 

 ① 今、この状況における反応という視点 ⇒ その人らしさの表れという視点、という順序

 

 私たちは、人と接する時、通常、その人がどういう人かという目でみています。たとえば、医師からの病状説明の後、どうしても受け入れられず、頑なに認めようとしない方がいらしたとします。すると、頑固で現実を受容できない人と思ってしまいがちです。でも、その人は、まだお子さんが小さくて、家族のために健康でいようと日々心がけていて、毎年人間ドッグを受診していたのに、腰痛で受診したら、がんの末期で治療の方法はなく、余後は半年もないと言われていたのだとしたら?・・・・・・医師の告知をすぐに受け入れらないのは無理もないと思いますよね。

 

 まずは、今の状況を理解し、それがその方にとってどんな影響を与えうるのか、という視点を持つことです。その上で、他の多くの方々とは違う、その方にユニークなものごとの捉え方や反応パターンかもしれない、という理解をするという順序が大切です。

 

 実際に、うつの方と関わっていると、深刻なうつ状態の時は、悲観的な考え方しかできず、柔軟性に乏しいと感じることが多いです。でも、うつ状態が改善されてくると、ウィットに富み、豊かな発想を持っていらっしゃる方だと思うようになります。初期のあり方はうつ状態によるもので、その方本来のあり方ではないのです。

 

 

 ② 自分が相手の立場だったらどんな気持ち、態度、行動になるだろうか?という視点を持つ

 

 これは言うまでもないことですが、想像力を働かせることを忘れないでください。

 

 

 ③ 自分自身がどんな感覚を抱いているか、どんな状態かを観察する

 

 私たちは、対人関係において、水面下でさまざまなコミュニケーションをとっています。それは、言語化されたものではなく、感覚として感じることが多いのです。実際、コミュニケーションの9割以上は非言語的だと言われています。

 

 たとえば、支援者は、被害にあわれた方に対して優しく寛容な態度で接するものだと普通思っています。でも、内心、この人は苦手だと思っていて、足が遠のいているということはよくあります。自分の中にほのかにあるその感覚を見逃したり、あるいはないことにしていると、どこかで行動として表れてしまうものです。ないことにするのではなく、まず自覚する!自覚しないと、その先の自分の行動をコントロールすることはできません。自覚した上で、では今どうするか?を考えて決めるということが可能になります。

 

 「こうあるべき」「こうしなければ」の前に、今自分が感じていることをしっかり意識化することです。

 

 


 


 第2回目の今回は、PFAの4Lのうち、Learn(理解する)とLook(観察する)についてお伝えしました。

 

 

 

 次回は、Listen(聞く)とLink(つなげる)について説明いたします。

 

 

 おつきあいいただきまして、ありがとうございます。

 

 次回もどうぞお楽しみに。

 

 

 

 

 

 

 

 

美香

オフィス イー・アイ(Emotional Intelligence)主催

プレゼンス・ブレイクスルー・メソッド(PBM)トレーナー/
星のまなびばリーダー
臨床心理士/公認心理師/大学非常勤講師

外資系IT企業に勤務後、起業したり、山小屋バイトや選挙活動などを経験しました。体を壊したことを契機に大学に編入して臨床心理学を学び、現在は、大学病院精神科に14年間勤務し、ターミナルケアにも携わっています。また、カウンセリングセンターで心理カウンセリングを行い、大学では心理アセスメントの授業を担当しています。

そのほか、PBMトレーナーとして、からだとこころのつながりから自分らしいあり方を身につけていくPBMベーシッククラスを開催しています。また、"自分と出会う、他者と出会う、世界と出会う”、対話の場である星のまなびばリーダーとして、生と死をテーマにしたLiving & Dying の会などを開いています。

そして、標高5,560mのチベットの山から海抜マイナス430mの死海まで訪れたり、ダイビングで海の世界を浮遊したり、大自然と地球と遊ぶ旅人です。

https://ameblo.jp/mikanomu