連載・コラム
スイーツとの付き合い方を考える
2019.8.10
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このコラムは、米国IBA認定ボディートーク施術士であり、また本メディア『Magellan』のプロデューサーであるわたくし鮫島未央が、心と身体と魂について「感じたこと」「気づいたこと」「見えなこと」などなどを徒然に綴っているものです。
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5月から7月までの3か月間、とあるスクールのファシリテーターをしていた。
その内容はというと、なかなか言葉にしづらいのだが強いていうならば「自己成長・自己認識といった内的な変容を促し、生命の全体性へと回帰するプロセスをサポートするプログラム」が組まれたスクールだった。
その根幹になっていたのは、ひとつにはユング心理学とトランスパーソナル心理学、そして十牛図に顕れる禅の思想。と書くといかにも小難しそうなのだけれど、実際には上記を専門的にと言うよりは、自分のLIFEの中の出来事に置き換えながらのわかりやすい座学と、その座学の内容をしっかりと身体感覚に落とし込むためのワークとで構成された、実に美しいプログラムだった。
そして3か月を通して実生活に根ざしたいくつかの課題を出され、自分の内面に向き合うためのグループと、グループを担当するサポーターがつくシステムになっていて、そう、説明が長くなってしまったけれど、わたしはクラス内のとあるグループのサポーターとして、グループワークの際にファシリテートをとりおこなうという役務を追っていた、というわけ。
そしてわたしは、普段の一対一のカウンセリング、コンサルティングとはまた違った「グループのファシリテーションのむつかしさ」にがっつり向き合うことになったのである。
クラスの意図としては、とにかく「自己認識を促し、自らの力で自身の全体性を取り戻す」というもの。サポーターに課せられていたのはただひたすら、「気づきを促す」という役割のみ。
当然、明らかに「こっちの方向でしょうよ」とまるで正解のような答えを相手に対して思うことがあったとしても、それは決して与えない。また、矛盾点や葛藤についても通常のセッションで行われるような、手痛いツッコミ(ぶった切る、のような)もなし(これはわたしの個人的なボディーワークのセッションにおける事前ヒアリング・事後フィードバックにおいては有効な場合があるのだが、詳しくはここでは割愛する)。
とにかくなんというか、介入しない、を徹底していたのである。
介入しない。見守る、観察する。
これが本当に「言うは易し、行うは難し」、そのものだったのはいうまでもない。だいぶ長い間、わたしはこのクラス内でのサポーター・ファシリテーターという立ち位置がよくわからずにいたと思う。
気づきを促す、って、いったい何なんだ!?と。
その悩みは、不意に解決した。
クラス受講生さんがシェアしてくれたあるエピソードによって「こ、これだ…!」と天啓を受けたような感じがしたのである。
その受講生さんを仮にAさんとしよう。
Aさんは、発達障害を持つ小学生児童のサポートを専門にされている方だった。その児童の中で、ある時、ずっとぬいぐるみをかじり続けて離さない子どもがいたそうである。
あまりにも長くかじっているとぬいぐるみは壊れてしまうし、パーツの何かを誤飲してしまうことも危ない。なにより不衛生でもあるため、職員たちは手を変え品を変えその子からぬいぐるみを引き離そうとしたそうだ。
「ぬいぐるみをかじったらダメなんだよ」
「口に入ったら、危ないよ」
「ずっとお口に入れていたら、汚れちゃうよ」
それでも、その子はそんな職員たちの言葉に抵抗を示し、かじることをやめることはなかった。
そこで、ある人がその子に、こんな風に声をかけた。
「○○ちゃん、ぬいぐるみ、かじっているよ」
と。
するとその子は、あんなにしていた抵抗をふっとやめ、ぬいぐるみをかじるのをやめたという。
わたしはこのエピソードの中に、なにかすごい人間の真理のようなものを垣間見た気がして、ずっと忘れられずに「ねえ、この話すごくない?」といろんな人に話して聞かせた。この話には、人間の気づきと受容についてのヒントがたくさん詰まっている気がしたのだ。
まず、本人が今まさに没頭している行為について、外側からいくら「ダメだよ」「よくない」「危ないよ」というある意味正しい言葉がけをしたところで、本人にとっては「単なる否定」と聞こえてしまい、反射的に抵抗が働き、事態は膠着するのではないか、ということ。
またもう一つは、良い悪いのジャッジもなく、行動の矯正もなく、ただ「あなたは、今、ぬいぐるみをかじっているよ」と、フラットな視点で“その状態であること”を伝えてあげることにより、本人が行為に没頭してその行為と同一化することによって「自己」と「行為」が同化している膠着状態から、ふっと抜けられるのではないだろうか。
「あ、“わたし”と、“ぬいぐるみをかじっている状態”は、別々のものなんだ」
「別々のものだから、“わたし”は、“行為”を、選べるんだ」
「じゃあ、ぬいぐるみを、どうしようかな」
と、第三者がその状態をただ、見てあげることで、ただ、告げるだけで、もうその本人は次の行為をちゃんと選択することができるんだ……!
わたしはこのエピソードを聞いて、その後のグループワークの際のファシリテートが本当に楽に、楽しくなった。
ぬいぐるみをかじったら、ダメなんだよ。なんて言わなくていい。
そのままだと、危ないんだよ。なんて言わなくていい。
ただあるがままを見て、何のジャッジもない言葉にするだけで、その場が、その人が、グループ全体のダイナミクスがドラスティックに変化していくことを見るのは本当に素晴らしい体験だった。
今でも、誰かに何かを告げるという場面になるといつも思い出す。
わたしがいう言葉について。人間の気づきの力の可能性について。
「あなたは、ぬいぐるみを、かじっているよ」
■ボディートーク(BodyTalk)療法とは?
身体の声を聴いて、心身の意識を統合します。心身から「分離」が解き放たれると、心からは恐怖が、身体からは緊張がやわらぎ、今を生きられるようになります。
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鮫島 未央
米国IBA認定ボディートーク施術士。
「人にとって本当の幸福とはなにか?」という疑問が物心ついた時からあり、心理・哲学・人智学・精神世界・ボディーワークなどあらゆる分野を学んできました。それでも「うまくいく人とそうでない人」が生まれてしまう不全感をどこかに感じていましたが、ボディートークに出会い、その効果を自分自身で体感し「ここにすべてがある!やっと出会た!」と感じました。自然に心身を回復し、本来のその人そのものを輝かせてくれるボディートークを、一人でも多くの方に届けたいと思う日々です。プライベートでは二児の母。好きな食べ物は生ハムと牡蠣。