連載・コラム
スイーツとの付き合い方を考える
こんにちは、石井です;。
さて、僕は暗闇の中で襲いかかってくる恐怖と不安の大波に巻かれ、何度も何度も自ら命を絶つことを考え続ける夜をなんとか乗り越えました。夜が開けたことは、看護師がバイタルチェックに来てくれたので知ることができました。窓から差し込む光や、時計など僕は「時」を認識するものから隔離されていたのです。
心の状態というのは正直に体の反応として現れるもので、僕は出された朝食のパンを手探りでふたくちほどかじった後、もうすっかり食欲などなくてまたベッドの中に体を沈めました。
しばらく経ってから、僕は徐に体を起こし、部屋の中の探検を始めることにしました。不安の波が去ると好奇心の波が心の中にやってきたのです。文字通り暗中模索の状態で、手探りで部屋の中にあるものをひとつひとつ確認をしていきます。慣れない暗闇の中、部屋の広さや配置を認識することにも骨を折りました。
そんな中、自分の口からぽつりと言葉が漏れました。それは「ダイアログ・イン・ザ・ダークの世界に来てしまったんだな」という言葉でした。みなさんはこのダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下、DID)をごぞんじでしょうか?「暗闇のエンターテインメント」とも言われている漆黒の闇の中で視覚以外の感覚を使って日常を体感するワークショップです。
僕は2012年の4月に、青山にあったこのDIDに参加していたのです。この経験が、この時の自分を救ってくれるきっかけを作ってくれました。
マインドフルネスの世界では、「自分を客観的に捉えられるか」ということをよく言います。主観や感情に囚われるのではなく、客観的にその状況・事実を捉え、傍観者の視点を持つことが大切だと言われています。。僕はこのDIDに参加したことがあるという経験から、この客観性を持つことができました。
以下、僕が当時DIDに参加した時に書き綴った感想です。
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【ダイアログ・イン・ザ・ダーク】
今日、初体験したダイアログ・イン・ザ・ダーク。)ちょっと長くなりそうだけど、感じたことを書いてみようと思います。
最初の部屋は薄暗い部屋。アテンダントの小島さん(視覚障害をもったスタッフの方)から、白杖の使い方や注意事項を聞いたあと、さらに暗い部屋へと移動し、そこで視界を奪われます。
ドアを開ける音が聞こえ、わくわくしながら、でもおそるおそる次の部屋に進むと闇の中に、「外」が広がります。足から伝わってくる地面の感触、鼻から伝わってくる植物の匂い、耳から伝わってくる水の音、鳥の声。「外」にいるはずがないのに、そこには「外」が広がっている感覚。
公園と呼ばれるその場所で、しばらく散策をしたのですが方向感覚と距離感は失ったまま。最初にいた場所から離れたと思っていたら、その最初にいた場所に戻ってきていました。
お互いにぶつからないように、常に声をだして自分の居場所を知らせ、「ここに何々があるよ!」とか、「段差があるから気をつけて」など、お互いを気遣う言葉が自然にうまれました。暗闇の中でお互いを信頼し、肩や背中に触れながら闇の中を進んでいきます。
プランターから小さな植木鉢に土を入れ、ハーブの種を蒔いたり、音がなるボールを使ってキャッチボールをしたり、視覚がある状況下だったら当たり前にできることが、視覚を奪われた中では全てが新鮮。自分の「触覚」が試されます。
そして全ての行動において、一つ一つの動作が「丁寧」になりました。
暗闇で過ごす中、気づくと何も見えないのに目は開けたままでした。
試しに目をつむってみると「見えない」という状況は同じなのに、途端に「不安」が頭をよぎりました。「体」の状態が「心」に与える影響というか、「見えない」ことに対する不安ではなく「目を閉じている」という状態に不安を覚える不思議な気付きもありました。 (逆にずっと目をつむった状態で参加している方もいらっしゃいました。)
終盤にはカフェもあり、テーブルにすわって思い思いのものをオーダーします。お支払いももちろん暗闇の中で。ビールやワインなども注文でき、ちょっとしたお菓子も食べることができます。「視覚」が奪われている中で「味覚」が研ぎすまされ、「味覚」の記憶によって自分が今なにを飲んでいるのか?なにを食べているのか?の情報が伝わってきました。
このカフェで驚いたのは、アテンドしてくれている小島さんや、カフェスタッフの動きの早さと正確さ。空間を把握しているのはもちろんのこと、ぼくたちの話声でその人との距離感などもわかるそうで、お茶を出してくれるときに「左から失礼します」といってサーブをしてくれました。
終わりに近づき、目を慣らすために再び薄暗い部屋へ。
ほんの少しの光なのに、まぶしく感じられ、できれば暗闇の中に戻りたいという気持ちにさえなりました。
さて、ここまでとても長くなってしまいましたが、とにかく思ったこと。
暗闇の中では、「見えないもの」が「見えます」
それは「感じる」と同義語かも知れません。
視覚以外の感覚器を使って、この世界を「見る」こと、「感じる」こと。
そして、人を「見る」こと、「感じる」こと。
ダイアログ・イン・ザ・ダーク。
今度は気の置けない友人と一緒に体験してみようと思います。
今日とどんな違いを感じるのかが楽しみです。
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改めて読み直してみて、圧倒的にマインドフルな状態にいたことがわかります。そして僕は非日常的にこの状態を体験するのではなく、日常でこの状態でいることになったのです。
続きはまた。
石井 健介
1979年生まれ セラピスト
アパレル業界を経て、エコロジカルでサステナブルな仕事へとシフト。2012年よりクラニアルセイクラルとマインドフルネス瞑想を取り入れたThe Calmというオリジナルセラピーを始める。同時進行してフリーランスの企画・営業・広報として働き始める。
2016年の4月のある朝、目を覚ますと突然視力が失われていた、という衝撃的な体験をしたが、日々をマインドフルにいき、生来の風のような性格も相まって周囲が驚くくらいあっけらかんと過ごしている。