2019.9.24

chapter.2 精神の振れ幅を支える身体になるには?

人に手を触れる職業の人の責任

 

谷:私は6年ほど前のトム・マイヤース(※)の2日間の解剖のクラスがあって、そこで参加をさせてもらいました。

(※トム・マイヤース:「アナトミー・トレイン」の著者であり、、アイダ・ロルフ博士、モーシェ・フェルデンクライス、そしてバックミンスター・フラーから直接指導を受けた筋膜のスペシャリスト。)

解剖させていただいた御献体が高齢の女性だったんです。中肉中背で特に肥満されているという方でもなくて、ペースメーカーが入っていたので、何か心臓血管系とか血液に関連する病気を持たれていたのかなということはちょっと分かっていたんですけど腹部の大動脈にげんこつと同じぐらいの動脈瘤があったんです。

 

うちの父がその当時、腹部に動脈瘤があったこともあり、すごく関連性を持って見ていました。

 

腹部や鼠径部の血管がこんな状態のときに、われわれボディーワーカーによる、何かをプラスの方向に変えていきたいという好意的な判断による働きかけが、もしかしたら逆に働いてしまう可能性があるとすごく強く感じました。

 

人の体に手を置くという職業である人たちが、体の内側にあるものを立体的にしっかりと理解できていない状態で、どなたか他のからの体に手を置いて何かをするというのは、あまりにも無責任なんじゃないかなと、すごく思ったんです。

 

それを勉強する機会を提供したいと思ったのがきっかけで、日本の方のためのクラスをトムにしてもらうようにお願いをして、お手伝いをしています。

 

小笠原:この中にボディーワーカーと言うか、体に関わる仕事をされている方はどれくらいいますか?

 

(会場、パラパラと手が挙がる)

 

私はボディーワークでも比較的静かなワークをする人たちと一緒に勉強する機会が多いんですが、みんな勉強好きなんですけど、隣接業界とあまり交流がなかったりするんですね。解剖実習に参加されていたスポーツトレーナー業界の方とご一緒することは本当になかった。そうするとあの方たちの元気さがまぶしいんです(笑)。体も立派だし。

 

 

 

解剖学実習の5日間を支えてくれたもの

 

解剖のクラスって肉体的にハードなんです。朝8時ぐらいからレクチャーがあって、ずっと立ちっぱなしで、すごく集中力がいる作業をする。ちょっとお昼休憩があって、夕方5時、6時までという感じですね。それを5日間ぶっ通しでやるので、立ってるだけでも大変なんですよ。

 

クラスの中でもトレーナーさんとか鍛えることをやっている人たちのことを「スポーツの人たち」と私は呼んでたんですけど(笑)、スポーツの人たちの明るさがすごくいいなあ!って感じていたんですよね。

 

セラピストらしい、繊細でおだやかで、気持ちをわかってくれて丁寧に寄り添ってくれて、適度な距離で、スペースのある、安全なコミュニケーションをしてくれる人たちが持っているよさももちろんあるんですが、全然違う健全さがあるんですよ、「スポーツの人たち」には。

 

筋肉があるって、身体が強いっていいな!ってその明るさに支えられていたところはあります。解剖をしていく毎日ってやはり正直精神も疲労しますので。

 

走ったり、筋肉を鍛えたりしている人たちの明るさって、ボディーワーカーの明るさとぜんぜん質が違う。違う人種に感じるくらいでした、私には。

 

谷:正確に言うとスポーツの人じゃないんですけどね(笑)。

 

解剖のクラスに参加しているのは、スポーツの人をトレーニングする人。あとは一般の方をトレーニングする人もいれば、運動を指導されている方が結構多かったですね。あとは理学療法士の方もいらっしゃいますし、いろんなタイプの運動を指導されている方がいたと思います。

 

小笠原:なんでそんな呼び方になっちゃったのか自分の中でもよくわからないんですけど。何て呼んだらいいんでしょう。トレーナー?

 

谷:トレーナーの方もいましたね。ストレッチ講師の方もいましたし、パーソナルトレーナーの方もいらしたし、フィットネスインストラクターの方もいましたね。

 

小笠原:解剖実習は、7人の方の御献体があって、それを7~8人ずつで50人ぐらいで解剖していきました。

 

怖くないですか?と何人かの方に聞かれたんですが、怖くはないんですがど、やっぱりどこかで精神を麻痺させ続けている。なんとなく危ういところでバランスをとっている感じはありました。私は2日目ぐらいが一番フラジャイルになっていたなと思います。

 

作業してる最中にふと「何してるんだろう?」という気分になるとか、ちょっと自分が乖離っぽくなっていると思ったりとか。どこか日頃の生活とはまったく違う精神状態のバランスを何とかとりながら作業をしながらやっているという部分がありました。

 

Chama先生はいかがでしたか?

 

 

Chama:僕は行って、同期の方々とごあいさつするまで、実際に切るって知らなかったんですね。

 

小笠原:えーー!!

 

Chama:たぶん解剖の専門の方がお切りになって、それを見てるのかなと勘違いしてたんですけど。もちろん説明書を送っていただいてるんですけど、僕の単純なミスなんですけど。前日の夜、本当に切るんだ、どうしようと思って(笑)。

 

谷:ちゃんと事前に説明していますって!

 

会場:(笑)

 

Chama:翌日になって、何しにここまで来たんだと、30分くらい自問自答を繰り返しながら、けっきょくはやる感じだったんですけど。

 

小笠原:実際に解剖を始める前にメスの使い方の授業があるんですよね。実習室の外でビデオを見るんです。

 

ご遺体を使った実習のビデオなので、それを見たときに「あ・・ちょっともしかしたらだめかも」と正直思った。

 

でもいざ解剖を始めると、大丈夫なんです、不思議と。ご検体の方との間に、生きている人といるような不思議な温かい繋がりの感覚というのがあって。

 

思えば医療従事者でないと、ご遺体と対面するときって、たいてい身内かすごく仲のいい方が亡くなったときだけですよね。ご遺体に対面するときに、必ず深い悲しみ越しにご遺体と出会う。

 

感情がなくて、名前も知らない方のご遺体を前にして、そういう出会い方とは違うニュートラルな死との出会いと言ったら変なんですけれど……。その感覚を感じたときに、不思議な温かい感じがあったのは解剖実習全体を通してもとても印象的な経験でした。

 

とはいえ精神的にもかなり揺さぶられる経験なわけです。

 

そこの場を、スポーツの人たちの健やかさが(笑)支えてくれていたって、私はすごく思ったんですよね。

 

一日中、立ちっぱなしで解剖をしていても、夜にトレーニングしているみたいなタフな人たちが持っている、軸の太い健やかさというか、肉体の強さに支えられた明るさと神経系の強さみたいなものに、あの場はホールドされていたなとすごく思います。

 

 

心臓血管系の働きが精神の振れ幅を支える

 

谷:その繊細であるということと、体が元気だということと、片方しか得られないということではないと思うんですね。そのスポーツの人たちというのはすごく元気そうに見えていて、彼らが繊細でないかというとそれは違うんですよね。そうではなくて、どのくらいの幅があるか、ということの違いだと思うので。

 

内側に内側に内側に内側にこもっていくと、内側に方向性ができてくるんだけれども、でも外側に出ていくエネルギーとか、自分の周りの球体(スフィア)というのは、もしかしたら、そんなに大きくは広がっていかないんじゃないかな。

 

わりと私たちって、体と心とか、あるいは精神であるとか、そういうものを別々に考えがちだと思うんですが、これはひとつだと思うんですね。

 

体がいろんなことができると、その可能性を色んな方向に向かって持っていける。心もその人が持っている精神も、対応できる幅が間違いなく大きくなると思うんです。

 

小笠原:そう思います。

 

 

谷:振れ幅がある程度大きいほど、バイタリティは大きくなります。

 

その振れ幅を大きくするために何が必要かというと、私たちの心臓血管系の働きがある程度高いレベルにあることが必要なんです。長生きできるかどうかとか、病気をしないかどうかとか。

 

特に病気ってすべてのスタートは細胞が炎症を起こすところからスタートします。細胞が炎症を起こさないようにしていくためのベースになっている適合力がどれだけあるかどうかということがすごく大事になってきます。

 

そうするとそのためには、その「スポーツの人」みたいにいろんなことができて、身体的なストレスに対しても、適合できる体を持っていると、精神的なストレスとか、解剖の場で感じるいろんな感情とか、そういったことを内側に持っていきすぎずに、自分でうまく対応ができる、ある程度のキャパの大きさというか強さを得られてるんじゃないかなと思うんですね。

 

たぶんすごく、繊細に繊細に繊細に内側にこもっていくと、怪我もたぶんしないし、安全だと思うけど、もしかしたら自分ができることの幅はもっとより狭くなっているかもしれない

 

ある日、和葉さんみたいに気がついて、これ変えなきゃと思ったときに、縮んでいた球体がまた広がっていくことができれば、それがより健康になっていることですね。

 

それはでも鈍感になることとも違うし、繊細でないということとも違う気がします。

 

 

 

 

 

次回Chapter3は、10/7アップ予定です。

 

 

 

 

 

谷 佳織(たに かおり)
Somatic Systems 株式会社代表取締役
Kinetikos 株式会社代表取締役
Gray Institute/ FAFS
ACSM/CEP
公認ロルファー®

1985年、グループフィットネスインストラクターとして活動を開始以来、アメリカ、日本のヘルス・フィットネスのフィールドにおいて、アクティブに教育活動を続ける。

機能解剖学、軟部組織へのアプローチ、ストラクチュラルインテグレーション等のトピックに関する指導者として高い認知度を持ち、NSCAジャパンをはじめとした各種教育団体の継続教育プロバイダーとして、日本各地にて数多くのセミナー指導とともに、グレイインスティチュート、TRX、DVRT、CFSC各種教育団体の教育プログラムの指導を提供する。

夫であるトラビス・ジョンソンとともに運営するオンライン教育情報サイト:キネティコスのコンテンツ作成、及び翻訳担当。海外講師を招聘した教育イベントの開催、及び米国で開催する解剖クラスの運営補助など、健康/運動指導に関わる専門分野の継続教育の提供に携わる。

 

 

chama / 相澤護(ちゃま / あいざわ まもる)
株式会社TYG ファウンダー 代表取締役
ニュートラルライト合同会社 代表社員
Gate8 プロデューサー
ハタヨガティーチャー(E-RYT500)

レゲエクラブ経営、CM制作会社勤務等を経て、父親の介護をきっかけにヨガ講師となる。

ヨガスクールTOKYOYOGA(表参道・渋谷・伊豆高原)、フリーペーパーYOGAYOMU、ヨガ手帳、ヨガブランドSAMAVSM、たまごヨガ、ヨガキャラクターPADMANKEYなど多彩なツールを通じ、ヨガの普及や、健康かつ持続可能なライフスタイルを提案。 “アシュタンガ・ヨーガ 実践と探求” “リストラティブヨガ 完全なリラクゼーションそして再生” “YOGABODY アナトミー・キネシオロジー・アーサナ” などの書籍を監修・監訳。
現在は、東京を中心に国内外でハタヨガ指導をしつつ、パーキンソン病を患う母親と同居し、パーソナルスタジオでもある自宅にヨガティーチャーやボディワーカーを招いてのライブ対談番組・水曜チャマの部屋のホストをつとめる。

『人生にヨガを』TYG: http://www.tokyo-yoga.com/corp
『Delight your home』GATE8: http://gate8.jp
『ヨガで世界を明るくする』chama公式WEBサイト: http://www.chama-yoga.com

 

 

 

小笠原和葉
ボディーワーカー /
プレゼンス・ブレイクスルー・メソッド®(PBM)ファウンダー


代替医療を中心として学術・臨床研究を深めながらさまざまな発信や
コラボレーションを通して新しい健康観「健康3.0」を探求している。
著書「システム感情片付け術」(日貿出版社)
クラ二オセイクラル・プラクティショナー(CHA)アシスタント・チューター
Somatic Experiencing®認定プラクティショナー 
宇宙物理学修士

東北大学大学院医学部研究生
趣昧はフィギュアスケート鑑賞。一児の母。
http://pbm-institute.jp/

Magellan編集部

この記事はマゼラン編集部によって作成されています。